この名言の意味

「人間は仕事を通して成長していかなければなりません」という言葉は、仕事を単なる生活の手段ではなく、人が変化し続けるための場として捉える緒方貞子の仕事観を端的に表している。続く「その鍵となるのは好奇心です」は、成長が自然に起きるものではなく、本人が能動的に働きかけて初めて起きるものだという因果関係を示す。好奇心という一見個人の性格のように思われがちな資質を、意図的に発揮すべき「姿勢」として位置づけている点に、緒方らしい実践的な思考が表れている。

後半の「常に問題を求め、積極的に疑問を出していく心と頭が必要なのです」は、好奇心の具体的な発揮の仕方を示す。「問題を求める」とは、問題が起きるのを待つのではなく自ら見つけにいく姿勢であり、「疑問を出していく」とは、疑問を心にとどめず言葉にして提示する行動を指す。つまりこの一節は、好奇心を「感じるもの」から「実践するもの」へと引き上げる、緒方の一貫した現場主義の思考法を凝縮した言葉になっている。

現代への示唆

目の前の仕事を「こなす作業」として片づけていないか、今日一度立ち止まって考えてみよう。会議の議題、日々のルーティン業務、誰かに頼まれた雑務——そのひとつに「なぜこうなっているのか」「もっと良いやり方はないか」と、自分から一つ疑問を投げかけてみる。好奇心は与えられるものでなく自分から取りにいくものだ、というのが緒方の教えの核心であり、その小さな一問が、単調に見える仕事を成長の機会に変えていく。

背景と出典

難民高等弁務官やJICA理事長として現場に立ち続けた緒方貞子が、自身の10年間のUNHCR在任経験を綴った著書『私の仕事――国連難民高等弁務官の十年と平和の構築』(草思社、2002年。2017年に朝日文庫として再刊)に記した言葉。湾岸戦争でのクルド難民危機、旧ユーゴ紛争、ルワンダ難民危機など、前例のないケースへの対応を次々に迫られた現場では、既存のマニュアルや手続きをなぞるだけでは対応できなかった。緒方が部下や職員に対しても「まず問いを立てること」を求め続けた、その哲学を要約した一節である。