この名言の意味

「国の内外を問わず」という限定は重要である。緒方はこの言葉で、海外留学や国際機関への就職だけを勧めているのではない。国内であっても、自分がまだ足を踏み入れていない場所、属していない集団に身を置くこと自体を「歩いてみる」ことの本質として捉えている。つまりこの一節は、地理的な国境を越えることそのものより、自分の慣れた枠組みの外に出るという行為の普遍的な価値を語っている。

「自分で」という言葉には、他者の説明や既存の情報を鵜呑みにしないという含意がある。誰かの体験談や統計データを読むことと、実際にその場に立って自分の目で確かめることの間には、決定的な違いがある——それは緒方自身が、幼少期の海外生活から国連の難民キャンプの現場に至るまで、繰り返し身をもって確認してきたことだった。だからこそこの言葉は、若い世代への一般的な激励ではなく、彼女自身の生き方の証言として重みを持つ。

現代への示唆

情報や動画でどれだけ「知ったつもり」になっても、実際に足を運んで得る手触りには敵わない。今すぐ大きな海外挑戦をする必要はない。まずは今週、行ったことのない街の一角を歩いてみる、知らない業界の人に一件連絡を取ってみる、自国のニュースだけでなく現地メディアを一つ覗いてみる——「自分の足」で確かめる小さな一歩を、緒方は「国の内外を問わず」という言葉で後押ししている。

背景と出典

この言葉も緒方貞子の著書『私の仕事――国連難民高等弁務官の十年と平和の構築』に記されたもので、聖心女子大学卒業後に単身アメリカへ渡り、ジョージタウン大学、カリフォルニア大学バークレー校で学び、後に国連の現場で難民問題の最前線に立ち続けた、緒方自身の経験に裏打ちされたメッセージである。幼少期から外交官の父の赴任でアメリカ・中国・香港を転々とし、成人後も自らの意思で海外に学びの場を求め続けた緒方にとって、「自分で歩いてみる」ことは単なる助言ではなく、生き方そのものだった。