この名言の意味

「すべてにおいて」という言葉が示すとおり、これは創作の一場面に限った話ではない。漫画の題材選びだけでなく、何を観るか、何を聴くか、休みの日に何をするかという生活全般にわたって、藤子・F・不二雄は「好き」という感覚を判断の一番手前に置き続けてきたという告白である。損得や世間の評価より先に、自分の心が動くかどうかを基準にする——シンプルだが、生涯貫くには意志のいる姿勢である。

実際、藤子・F・不二雄が幼少期から夢中になった手塚治虫の漫画、ディズニー映画、SF映画、8ミリカメラ、クラシック音楽、落語、鉄道模型、UFOや未確認生物への関心は、そのまま『ドラえもん』をはじめとする数々の作品の随所に姿を変えて表れている。役に立つかどうかで興味を選別していたら生まれなかったであろう発想の引き出しの多さこそが、この「「好き」を優先する」という一言に込められた創作の秘密である。

現代への示唆

「これが好き」という気持ちを、「役に立つから」「みんながいいと言うから」より後回しにしていないだろうか。藤子・F・不二雄は、子供の頃に夢中になった漫画や映画、模型といった「好き」の一つひとつを手放さずに積み重ねた結果、誰にも真似のできない作品世界を築いた。今日、あなたが「好きだけど役に立たないから」としまい込んでいる興味や趣味を一つ思い出してみよう。それをすぐ仕事にする必要はない。ただ今日一度、その「好き」に少しだけ時間を使ってみることから始めよう。

背景と出典

この言葉は、藤子・F・不二雄が児童向け雑誌『小学五年生』1994年9月号に寄せた文章で語った、自身の創作の原点についての表現である。手塚治虫の漫画、ディズニー映画、SF映画、8ミリカメラでの撮影、クラシック音楽、落語、鉄道模型、そして幼い頃から惹かれ続けたUFOや未確認生物——こうした「好き」の一つひとつが積み重なって、藤子・F・不二雄の作品世界を形づくっていった。この言葉は2023年から翌年にかけて川崎市藤子・F・不二雄ミュージアムが開催した生誕90周年記念原画展「『好き』から生まれた藤子・F・不二雄のまんが世界」でも展示の核となる言葉として紹介されている。